アロマテラピーって喘息にとってどうなんだろう。今回は科学的根拠に基づいて、アロマテラピーと喘息の関係についての研究論文を調べてみました。
アロマテラピーと喘息:燃焼の煙が出るタイプはNG
アロマテラピーは多くの方にリラクゼーション効果をもたらす一方で、喘息患者にとっては注意が必要です。特に燃焼させて煙を発生させるタイプのアロマ製品(お香やキャンドルなど)は、喘息の症状を悪化させる可能性が高いため避けるべきでしょう。煙や微粒子は気道を刺激し、咳や呼吸困難などの症状を引き起こす可能性があります。
国際喘息ガイドラインにおけるアロマテラピーの位置づけ
国際的な喘息ガイドラインであるGlobal Initiative for Asthma (GINA)のガイドライン(*1)では、喘息の症状を悪化させる可能性のある環境因子として、強い香りや揮発性有機化合物(VOC)が挙げられています。
Osborne (2017)の研究(*2)では、喘息患者の47%が香水などの強い香りによって症状が悪化すると報告しています。
天然精油の本質:エッセンシャルオイルも化学物質である事実
「天然」「オーガニック」という言葉に安心感を抱きがちですが、天然精油も基本的には複雑な化学物質の集合体です。
Chiu (2009)の研究(*3)では、一般的なエッセンシャルオイルには数十から数百の化学成分が含まれており、その多くはテルペン類やアルデヒド類などの揮発性有機化合物(VOC)であることが明らかにされています。これらの成分は天然由来であっても、気道に刺激を与える可能性があります。
Nematollahi (2018)の調査(*4)によれば、一部のエッセンシャルオイルからは、室内空気質に影響を与えるレベルのVOCが放出されることが確認されています。天然由来だからといって必ずしも安全というわけではないのです。
精油の呼吸器系への影響:科学的知見
精油が呼吸器系にどのような影響を与えるのか、科学的な研究結果を見てみましょう。
Weinberg (2017)の症例報告(*5)では、アロマディフューザーの使用後に重度の喘息発作を起こした例も報告されています。これは個人差が大きい反応ではありますが、気道過敏性のある人にとっては無視できないリスクです。
アロマセラピストの推奨と科学的事実のギャップ:交感神経刺激タイプの精油について
一部のアロマセラピストは、ユーカリやペパーミントなどの「刺激的」な精油が喘息に良いとしていますが、これには科学的な裏付けがありません。
Juergens (2014)の研究(*6)では、ユーカリオイルの主成分であるシネオールに抗炎症作用があることは示されていますが、この実験はエッセンシャルオイルの成分を内服しており、喘息患者への直接吸入は推奨されていません。
むしろ、Gibbs (2019)の研究(*7)では、これらの強い香りの精油が気道刺激物として作用し、一部の喘息患者では症状を悪化させるリスクがあることが指摘されています。
British Thoracic Society (2019)のガイドライン(*8)では、喘息患者は強い香りのする物質を避けるべきとされており、これにはメントールやユーカリなどの「清涼感」のある精油も含まれます。これらは一時的に「呼吸がしやすい」感覚をもたらすことがありますが、実際には気道刺激につながる可能性があります。
まとめ:喘息患者のためのアロマテラピー活用のヒント
喘息患者としてアロマテラピーを取り入れる場合は、個人の感受性を慎重に観察することが大切です。少量から始め、反応をよく確認しましょう。
発作があるときや体調の悪い時にはやめておく。
ティッシュに1滴たらすくらいにして、ほんのり香る程度にする。
ディフューザーを使用する場合は、換気の良い広い部屋で短時間使用するなど、工夫が必要です。
何よりも大切なのは、アロマテラピーが補完療法であり、医師が処方する喘息治療薬の代替にはならないということです。
アロマテラピーに興味がある場合は、必ず主治医に相談してから取り入れるようにしましょう。
参考文献
1. Global Initiative for Asthma - GINA 国際喘息ガイドライン 日本語版
2. Osborne, C. S., Hagman, N. E., Zwicker, J. G., & Mehta, D. I. (2017). Scent-triggered asthma in the clinical setting: A case report and review of pathophysiology. Journal of Asthma and Allergy, 10, 305-311.https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4734637/
3. Chiu, H. H., Chiang, H. M., Lo, C. C., Chen, C. Y., & Chiang, H. L. (2009). Constituents of volatile organic compounds of evaporating essential oil. Atmospheric Environment, 43(36), 5743-5749. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1352231009006785
4. Nematollahi, N., Kolev, S. D., & Steinemann, A. (2018). Volatile chemical emissions from essential oils. Air Quality, Atmosphere & Health, 11(8), 949-954. https://link.springer.com/article/10.1007/s11869-018-0606-0
5. Weinberg, J. L., Flattery, J., & Harrison, R. (2017). Fragrances and work-related asthma–California surveillance system, 1993–2012. MMWR Morbidity and Mortality Weekly Report, 66(15), 411. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28332885/
6. Juergens, U. R., Dethlefsen, U., Steinkamp, G., Gillissen, A., Repges, R., & Vetter, H. (2014). Anti-inflammatory activity of 1.8-cineol (eucalyptol) in bronchial asthma: a randomized clinical trial. Respiratory Research, 15(1), 1-10. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12645832/
7. Gibbs, J. E. (2019). Essential oils, asthma, thunderstorms, and plant gases: a proposed mechanism for the induction of attacks with increased risk of hospitalization and death. Journal of Asthma and Allergy, 12, 57-65. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6593190/
8. British Thoracic Society. (2019). BTS/SIGN British guideline on the management of asthma. Thorax, 74(Suppl 1). https://www.brit-thoracic.org.uk/quality-improvement/guidelines/asthma/